スイスにおけるイノシシ対策
ここ数十年、スイスでは、イノシシの繁殖率の高さと豊富な食料供給により、イノシシの数が増加し、その傾向は、一向に収まる気配がないようです。その結果、イノシシが引き起こす被害は、頭数の増加とともに増加しており被害額は数百万フランに及んでいます。
ZHAW(スイスの主要な応用科学大学)で獣害研究のリーダーを務めるステファン・スーター氏は、2013年以降、イノシシをトウモロコシやジャガイモ、菜種などの畑から遠ざけるための新たな方法や改善策を模索しており、イノシシを畑に近づけないようにして被害を防ぐためのイノシシの生態音響を利用したイノシシ抑止装置を開発しました。イノシシによる獣害の抑止に貢献することを目的としています。電池で動く2つのスピーカーで構成されており、コントロールボックスを介して、異なる時間間隔でランダムに音の組み合わせを再生します。内蔵された光センサーが、日没時にデバイスをオンにし、日の出時にオフにします。
イノシシの生態音響(苦痛音や警告音)にイノシシが危険を連想する音を追加すると、撃退効果が大きくなります。ステファン・スーター氏は、このイノシシ抑止装置によるイノシシの抑止力を検証し、電気柵を使った方法と狩猟法という2つの古典的な予防法も検証しました。これら3つの方法の有効性は、被害の増加の測定値だけでなく、イノシシの空間行動に基づいて評価されました。この目的のために、自然保護区で、約150頭のイノシシが捕獲され、マーキングされました。このうち、36頭のイノシシにGPS-GSM送信機付きの首輪を装着し、その空間行動が記録されました。また、ドローンの空撮画像を用いて、畑の被害状況を把握しました。このようにして得られた知識は、今後のスイスにおける、持続可能なイノシシ管理の基礎となります。
結果として、今回の比較調査では、どのような予防策であっても絶対的な防御にはならないことがわかったそうです。しかし、そのような方法を用いた畑では、、防止策を施していない畑に比べて、被害が著しく小さいことがわかりました。イノシシ抑止装置のおかげで、柔軟でインテリジェントな予防策が追加されました。播種後の重要な時期や、トウモロコシや小麦が初期の熟成段階(乳成熟)にあるときには、特に有効でということです。
また、狩猟によって大きな圧力をかけることで、予防策の効果を高めることができます。例えば、イノシシの群れの若い個体が駆除されると、他の個体もその場所を避けるようになります。しかし駆除された農地からイノシシを遠ざけることはできても、森からイノシシを永久に追い出したり、農地からイノシシを遠ざけたりすることはできません。電気柵もイノシシを畑から遠ざけるのに有効ですが、それはしっかりとした作りで、定期的にメンテナンスが行われている場合に限られます。
ステファン・スーター氏によると、イノシシ管理の課題は狩猟だけでは解決できないといいます。今後、イノシシの管理を成功させるためには、イノシシ抑止装置のような防止策を講じることで、エネルギーの豊富な餌への容易なアクセスを困難にし、イノシシの個体数増加を抑制させるような施策の他、イノシシが嫌がる代替作物へ転作するような、全体的なアプローチが重要だということです。
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