鉄道線路の害獣対策
鉄道線路の野生動物の対策として苦渋音・警戒音・天敵威嚇音等の忌避音声を使用した撃退装置を使用した研究結果(2015年)ありますので紹介します。
このユニークな撃退装置は、UOZ-1という製品名でワルシャワの製造会社であるNEEL Ltd.によって製造されています。
この装置は、V=160km/hの速度で列車が通過する際に、ロートジカ、アカジカ、ヘラジカ、バイソン、イノシシ、キツネなどの野生動物が直接線路を通過することを防ぐために導入されています。
この装置により、高速走行する列車との衝突による野生動物の減少を最小限に抑えつつ、衝突の危険性がないときには線路を通過させることができるようになったということです。
この装置は、野生動物が線路に近づくのを防ぐための野生動物の苦渋音・警戒音・天敵威嚇音等の忌避音声で作動します。装置は列車が接近する直前の一定時間、忌避声声を発します。
野生動物たちは、この音声を本物の警告だと認識し、天敵や、遺伝的に避けるようにプログラムされた危険に遭遇したときのように反応します。
自然界に存在する野生動物の音声は、苦渋音・警戒音・天敵威嚇音等野生動物に恐怖心を与えることが知られている最も優先度の高い恐怖音声で構成されています。
他の西ヨーロッパ諸国では害獣対策の一般的な解決策は、高速度または最高速度の鉄道の線路上で広く使用されている、高いワイヤーフェンスやサブトンネル・陸橋のような地上の構造物です。
それに比べて、この装置の設置場所は、野生動物たちにとって、餌場や交尾場所の中にある線路をほぼ自由に渡ることができ、また投資額が大幅に少なくて済むようです。(但し、一般の撃退装置より高額(100~150万円ほど)です。
同国の研究者チームは野生動物の苦渋音・警戒音・天敵威嚇音等を発する上記装置が、鉄道線路の近くに住む野生動物を保護する効果があるかどうかを調査しました。
2008年から2012年にかけて5年間のモニタリング(デジタルカメラを使用して野生動物の行動を24時間記録)により、野生動物と列車の衝突を防止する効果が高いことが証明されました。
モニタリング調査中2262頭の哺乳類が観察されたということです。
列車が接近して忌避音声が発せられると、野生の哺乳類のほとんどが逃げ出しました(種によって93~85%の場合もありました)。
最も数の多い種であるノロ鹿について、装置の有効性を検証するために、装置のスイッチを入れた状態で列車が近づいてきたときの野生動物の反応を比較した結果、列車の接近を忌避音声で事前に知らせると,野生動物はより頻繁に逃げ出し(忌避音声あり84%対忌避音声なし68%),列車が近づいてきたときの反応も20秒早くなりました。
無反応だったノロ鹿の割合は研究の最初の年と最後の年でほぼ同じだったことから、野生動物が警告信号(忌避音声)に対する「慣れ」という生態の証拠はなかったということでした。また、対向列車への反応時間(平均35秒)にも差はなかったということです。
この研究結果から、上記装置は列車と野生動物の衝突のリスクを減らすために、より効果的であることがわかりました。
上記研究は、野生動物がより早く線路から離れるように促すことで、列車と野生動物の衝突のリスクを減らすのに効果的であることを示しています。
野生の草食哺乳類(シカ、イノシシ、ノウサギ)も肉食野生動物(キツネ)も、危険を知らせる「鍵となる刺激」(忌避音声)を正しく理解していることが証明されたのです。
その後の追跡調査で、野生動物たちは、上記装置が設置された線路周辺の生息地を放棄することなく、線路周辺を餌場として利用したり、列車の通過を見計らって自由に線路を横断したりしているようです。
日本でも、シカによる獣害は深刻で最も被害額の多い獣害となっています。これまで日本のシカは「慣れ」行動が強いと見られる研究結果がありますが、上記のノロ鹿の例は参考となるかもしれません。
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