光と音に反応する昆虫
光と音を活用した害虫防除技術の新展開
農薬に依存しない工学的アプローチとして注目される害虫防除技術について、2つの研究例を紹介します。
(1)光に反応するアオドウガネ
走光性の活用
アオドウガネ(Protaetia
brevitarsis)を含む多くの昆虫は、光に引き寄せられる「走光性」を持ちます。特に夜間、光源に飛来する特性を利用した防除技術の研究が進められています。
光への反応特性
青色光(短波長)への誘引性
アオドウガネは特に青色光(400–500nm)や紫外線(300–400nm)に強い誘引性を示します。これは、昆虫の視覚がこれらの波長に敏感なためです。緑色・黄色光への反応
青色光ほど強くはありませんが、緑色(500–570nm)や黄色(570–590nm)にも一定の誘引性があります。赤色光への反応
赤色光(600nm以上)への反応は非常に弱く、多くの昆虫が無関心です。光源の特性と環境条件
光の波長や強度、使用環境によってアオドウガネの反応は変化します。特に人工光源は自然光よりも誘引効果が高まる場合があります。
研究例:
LED光源の活用
「アオドウガネ成虫を誘引するLED光源の最適波長探索および誘引距離の推定」(植物防疫
第72巻第3号、2018年)では、沖縄県で行われた研究が以下の成果を示しています。
最適波長の選定
紫外光に近い377nmが最も高い誘引効果を持つと確認。誘殺灯の設置間隔
誘殺灯を10〜20m間隔で配置することで効果的に防除が可能。
この技術により、サトウキビや牧草への被害を抑え、幼虫の密度を大幅に減少させることに成功しています。
(2)超音波に反応する夜蛾
夜蛾の感覚特性
夜蛾は胸部や腹部にある感覚器官(耳)で超音波を感知し、捕食者であるコウモリのエコーロケーション音(20–100kHz)に敏感に反応します。
超音波への主な行動
飛行パターンの変更
ジグザグ飛行: 超音波検知時に直線飛行を止め、予測困難な動きで回避。
旋回飛行: コウモリの追尾をかわすため急激な方向転換を行います。
急降下行動(プランジング)
捕食者が近づいた場合、急降下して地面や植物に向かいます。静止行動(フリーズ)
音を立てず地面や葉上で隠れることで捕食を回避します。
研究例:
超音波による夜蛾防除技術
「超音波でヤガ類の飛来を防ぐ手法の確立」(農研機構、農業技術10大ニュース
2022年選出
)では以下の成果が報告されています。
嫌悪する超音波の明確化
夜蛾が嫌い、かつ慣れにくい超音波パラメータを行動試験と神経応答から解明。装置の開発
全方向に超音波を発生できるスピーカーを開発し、イチゴ栽培施設やネギ畑で実証実験を実施。飛来数・産卵数が減少し、食害軽減に成功しました。減農薬の可能性
殺虫剤使用回数の削減が期待されています。
まとめ
光の波長や超音波を活用した害虫防除技術は、農薬に依存しない持続可能な農業を実現するための有効なアプローチです。これらの技術は、環境負荷を軽減しつつ、効率的な害虫管理に貢献しています。
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